2013年11月9日土曜日

発信箱:あの日の記憶=青野由利(論説室)<毎日新聞 2013年01月18日>

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発信箱:あの日の記憶=青野由利(論説室)
毎日新聞 2013年01月18日 01時58分
http://mainichi.jp/opinion/news/20130118k0000m070165000c.html
◇全文引用


 頭の中の記憶装置が日々、劣化している。数日前の取材メモを見て、「なんのこと?」と思うほど。あの3月11日でさえ、当日はともかく、1週間後、10日後のこととなると、さっぱり思い出せない。
 そんな具合だから、私が福島県民だったら、県の「健康管理調査」に、怒るか、あきらめるか、悲しくなる かのいずれかだろう。3月11日から4カ月間、1時間単位でどこにいたか思い出し、調査票に記入しなくてはならない。自宅か、勤務先か、何市の何丁目か。 移動は車か徒歩か。3月中の食事も思い出す必要がある。目的は被ばく線量の推計だ。
 回収率は昨年12月で23%。原子力規制委員会が開催している検討会でも割合の低さが問題になった。福島からも、「とても埋められない」という話が伝わってくる。
 もちろん、推計は一人一人の健康管理のために必要だ。みんなが不安に思う低線量被ばくの影響を集団とし て検証するための世界的に貴重なデータでもある。しかし、後から記憶をたどったとして、どれほど正確か。時間がたつと記憶が変質することは、心理学の世界 ではよく知られている。
 規制委は事故に備えヨウ素剤を戸別配布する方針を決めたが、「行動記録」の重要性も周知しておいた方がいい。政府も業界も「安全が確認されたものから再稼働」などと言う前に、真剣に考えなくてはならないのは事故対策だ。
 そういえば、原発事故直後に、「行動をメモしておいたほうがいい」と言った人がいた。その時に広めておけばよかったが、どこの誰の話か、これまた思い出せない。メモっておけばよかったと思っても後の祭りである。

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