2012年12月5日水曜日

高橋洋一「ニュースの深層」 東電の法的整理、電力自由化、そして原発ゼロの現実性ーー各党の原発政策を徹底比較する(現代ビジネス)

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高橋洋一「ニュースの深層」
東電の法的整理、電力自由化、そして原発ゼロの現実性ーー各党の原発政策を徹底比較する
2012年12月03日(月) 高橋 洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34216

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◇全文引用

(1)
 先週、第三極の一部が「日本未来の党」に合流した。これで、第三極は、日本維新の会、みんなの党、日本未来の党にほぼ集約された。維新とみんなは 保守系、未来は革新系といえる。日本維新の会とみんなの党は、政策は似かよっているが、石原慎太郎氏は別として旧たちあがれの政治家の政治手法に違和感が あったのだろう。みんなはいい意味でぶれなかったといえる。
 民主党、自民党などの既存政党のほか、これで第三極もでそろった。今回の総選挙の争点は多いが、本コラムでは原発政策に絞って各党比較をしてみよう。
 政権党の民主は、「2030年代に原発稼働ゼロ。固定価格買取制度を生かし、再生可能エネルギーの飛躍的普及。発送電分離を検討し、発電分野、小売分野などの自由化」。
 政権に返り咲く意欲がある自民は、「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立。全原発再稼働を規制委員会で3年以内に結論。10年以内に電源構成のベストミックスを確立」
 みんなは、「2020年までに発送電分離など電力自由化、2020年代にゼロ、経済成長を両立」
 維新は、「脱原発依存体制の構築。原発政策のメカニズム・ルールを変える。安全基準などルール構築が必要」とし、「2030年代までにフェードアウト」は公約でないとしている。
 未来は、「卒原発。10年以内に原発完全廃炉。既存原発の稼働停止・廃炉計画策定、新増設を禁止。3年間の経過措置として発送電分離を含む電力システム改革を実施。値上げ抑制のための交付国債」
 まず、原発ゼロについて年限に言及しているのは、未来、みんな、民主。それぞれおおざっぱに言えば10年、20年、30年後だ。自民、維新は言及 していないが、自民は電力自由化に触れていないので、そもそも原発ゼロを目指しているとはいえないようだ。維新は、電力自由化を前提としており、公約でな い政策集では自ずと30年後までには原発ゼロになるとしている。
 次に、より重要なことであるが、原発を含めエネルギー政策全般をどのように扱うかについて、手法が明記されているか。民主は一応発送電分離、電力自由化に言及している。自民は再稼働を規制委員会で決めるとしているが、発送電分離、電力自由化には言及していない。
 みんなは、2020年までに発送電分離など電力自由化と、ここでも年限を区切り電力自由化としている。維新も発送電分離、電力自由化としている。 ここは要注意点だ。石原氏と橋下氏の発言だけにマスコミは注目しているが、実はどのような策を用意するかで原発ゼロは決まってくる。筆者は橋下氏が巧妙に 仕掛けをしているとみている。ただし、明記されていないので、どのように実行できるかは不透明さが残る。未来は発送電分離、電力自由化としているが、その 年限を3年以内としている。

(2)
各党の原発政策の比較図URL
http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/a/a/600/img_aad38c6b9b9b1b95dc043da1a3c7b135146770.jpg

 民主は、表面的には良いことを行っているようにみえるが、政権党であるのに、今でもできることをやっていないのは、言行不一致である。 例えば、東電の破たん処理。みんな、維新、未来はいっている。
 東電を法的整理すれば、その過程で発送電分離などの電力自由化もできる。逆に法的整理をしないと電力自由化はまずできない。今後も引き続き東電の地域独占を許し、発電の新規参入はまず期待できず、実は発電コストの高い(後述)原発のフェードアウトはできない。
 また、電力会社が地域独占である限り、その電力料金は国民にとって避けられないものであり、その意味では税金と同じである。だから、まず東電を法 的整理で解体し、関東において電力自由化をしない以上、「独占的な電力料金」か、「税金負担」か、という選択肢しか国民には与えられず、どちらにせよ国民 負担になって、脱原発はなかなかできず、料金値上げだけが国民に降ってくる。
 一般の資本市場のルール通りに法的整理しておけば、東電の債権者や株主が相応の負担をするので、国民負担は5兆円程度軽くなる。と同時に、送電部門などの売却が行われるので、発送電に分離も可能になって、発電の新規参入が発生し、電力料金値上げもストップできる。

(3)
 この東電の法的整理を阻むモノは、昨年夏に、民主、自民、公明の密室談合で成立した原子力損害賠償支援機構法だ。この法律は表向き、福島原発の損害賠償であるが、その他に東電を法的整理させないための公的資金投入などの「筋悪な」措置が盛り込まれている。
 被災者への損害賠償を別組織で行えば十分で、東電は法的整理しても、電力業務への支障もなく、賠償も可能で、しかも国民負担は少なくなる。それに もかかわらず、民自公は電力業界に天下りなどで便宜を受けてきた経産官僚のいいなりでこの悪法(東電救済法)をこっそりと成立させた。
 政権党の民主が、こうした東電救済法を作っておきながら、今さら発送電分離をいうのは、開いた口がふさがらない。この意味で、民主と自民は同じ穴の狢(むじな)である。
 みんな、維新、未来は、東電の法的整理を訴え、発送電分離、電力自由化をいい、その結果原発ゼロというロジックの流れはいい。原発ゼロがまともなスケジュールでありさえすれば、後は政治的なメッセージをどのようにいうかという程度問題だ。
 その上で、気になるのは発送電分離、電力自由化の実現プロセスとスケジュールだ。電力自由化は、これまでの経緯のある話だ。筆者の知る限り、電力 自由化が盛り上がったのは2000年ごろだ。発送電分離は1990年代以降の電力自由化の流れの中で米国やEUでも進められており、一定の効果が出てい る。制度設計の不備で狙い通りの効果に達していない地域もあるが、北欧などでは高い実績を残していたからだ。
 ところが、日本の電力自由化ははっきり言って失敗だった。独禁法で地域独占の規定が形式的に削除されたが、ご存じのとおり地域独占は今でも事実上続いている。発電の新規参入は微々たる状況だ。
 それを乗り越えて、電力自由化をやり直さなければいけないのだから、未来のように3年で電力自由化が終了するとの見通しは甘い。
 実際には、原発を含む発電コストがどのように推移するかがポイントになる。
 まず東電を法的整理して、関東で発送電分離をするのはいい。そのほかの電力会社ではこの手法が使えず、発送電分離を行政的に誘導して、発電コスト を公開しつつ、原発から他の発電手段への移行を図らなければいけない。ここで、他の発電として再生可能エネルギーだけに固執していると経済成長との調和が 図れない。

(4)
9月10日付け本コラムで、 政府のコスト検証委員会で示した原発の発電コストは過小になっていて、補正すれば20円弱(円/kWh)になると書いた。事故リスク対応費用と核燃料処分 コストなどをさらに精緻に再計算しても、似たり寄ったりだ。注意すべきは、安全規制をどうするかとは別の話ということだ。国際基準の安全規制にすれば、そ れだけ原発コストが高くなるだけだ。
 2020年時点における他の発電方式のコストと比較すると、太陽光などを除き原発は明らかに高い。つまり、原発の新設は、2020年時点で、 LNGの新設などのコストを上回り、市場原理(発送電分離)の下で電力会社が合理的な決定さえすれば、原子力は自ずと価格競争力がなくなり、次第にフェー ドアウトしていく。
 単純な比較はできないが、米国エネルギー省資料でも同じような傾向になっている。このため、あえて原発を続けようとすれば、政府からの特別な支援が必要になっている。
以上、電力自由化10年、原発フェードアウトに10年というのが、市場原理を使った脱原発のギリギリの線だろう。
 産業の形態を変える自由化措置には、長い期間がかかるものだ。基幹産業の電力であればなおさらだ。未来は、経過期間を3年としてその間に電力自由 化を行うとしているが、混乱回避に財政措置をするなど、市場原理以外のものをフル活用するのだろう。それは一案であるが、そうであればどの程度の財政負担 になるかを示さなければいけない。もし国民負担なしでできるというのであれば、それは財政支援する根拠がなくなってしまう。
 みんな、維新、未来ともに最終形では、コスト、安定供給ともに国民を満足させる脱原発路線であると思うが、それに至る過程で、財政負担で国民負担が発生してまでも行うのか(未来)、市場原理で国民負担を最小にして行うか(みんな、維新)の差がある。
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