2012年2月19日日曜日

「平井憲夫」著 原発がどんなものか知ってほしい(9~12)

故「平井憲夫」著 原発がどんなものか知ってほしい(9~12)
http://www.iam-t.jp/HIRAI/
前書き
 私は原発反対運動家ではありません。二○年間、原子力発電所の現場で働いていた者です。原発については賛成だとか、危険だとか、安全だとかいろんな論争がありますが、私は「原発とはこういうものですよ」と、ほとんどの人が知らない原発の中のお話をします。そして、最後まで読んでいただくと、原発がみなさんが思っていらっしゃるようなものではなく、毎日、被曝者を生み、大変な差別をつくっているものでもあることがよく分かると思います。

筆者「平井憲夫さん」について:

1997年1月逝去。
1級プラント配管技能士、原発事故調査国民会議顧問、原発被曝労働者救済センター代表、北陸電力能登(現・志賀)原発差し止め裁判原告特別補佐人、東北電力女川原発差し止め裁判原告特別補佐人、福島第2原発3号機運転差し止め訴訟原告証人。
「原発被曝労働者救済センター」は後継者がなく、閉鎖されました。

9.普通の職場環境とは全く違う
http://www.iam-t.jp/HIRAI/page9.html
10・「絶対安全」だと5時間の洗脳教育
http://www.iam-t.jp/HIRAI/page10.html
11・だれが助けるのか
http://www.iam-t.jp/HIRAI/page11.html
12.びっくりした美浜原発細管破断事故!
http://www.iam-t.jp/HIRAI/page12.html



原発がどんなものか知ってほしい(9)

普通の職場環境とは全く違う

放射能というのは蓄積します。いくら徴量でも十年なら十年分が蓄積します。これが怖いのです。日本の放射線管理というのは、年間50ミリシーベルトを守ればいい、それを越えなければいいという姿勢です。
 例えば、定検工事ですと三ケ月くらいかかりますから、それで割ると一日分が出ます。でも、放射線量が高いところですと、一日に五分から七 分間しか作業が出来ないところもあります。しかし、それでは全く仕事になりませんから、三日分とか、一週間分をいっぺんに浴びせながら作業をさせるので す。これは絶対にやってはいけない方法ですが、そうやって10分間なり20分間なりの作業ができるのです。そんなことをすると白血病とかガンになると知っ てくれていると、まだいいのですが……。電力会社はこういうことを一切教えません。
 稼動中の原発で、機械に付いている大きなネジが一本緩んだことがありました。動いている原発は放射能の量が物凄いですから、その一本のネ ジを締めるのに働く人三十人を用意しました。一列に並んで、ヨーイドンで七メートルくらい先にあるネジまで走って行きます。行って、一、二、三と数えるく らいで、もうアラームメーターがビーッと鳴る。中には走って行って、ネジを締めるスパナはどこにあるんだ?といったら、もう終わりの人もいる。ネジをたっ た一山、二山、三山締めるだけで百六十人分、金額で四百万円くらいかかりました。
 なぜ、原発を止めて修理しないのかと疑問に思われるかもしれませんが、原発を一日止めると、何億円もの損になりますから、電力会社は出来るだけ止めないのです。放射能というのは非常に危険なものですが、企業というものは、人の命よりもお金なのです。

原発がどんなものか知ってほしい(10)

「絶対安全」だと五時間の洗脳教育

原発など、放射能のある職場で働く人を放射線従 事者といいます。日本の放射線従事者は今までに約 二七万人ですが、そのほとんどが原発作業者です。 今も九万人くらいの人が原発で働いています。その 人たちが年一回行われる原発の定検工事などを、毎 日、毎日、被曝しながら支えているのです。
 原発で初めて働く作業者に対し、放射線管理教育 を約五時間かけて行います。この教育の最大の目的 は、不安の解消のためです。原発が危険だとは一切 教えません。国の被曝線量で管理しているので、絶 対大丈夫なので安心して働きなさい、世間で原発反 対の人たちが、放射能でガンや白血病に冒されると 言っているが、あれは“マッカナ、オオウソ”であ る、国が決めたことを守っていれば絶対に大丈夫だ と、五時間かけて洗脳します。  
 こういう「原発安全」の洗脳を、電力会社は地域 の人にも行っています。有名人を呼んで講演会を開 いたり、文化サークルで料理教室をしたり、カラー 印刷の立派なチラシを新聞折り込みしたりして。だ から、事故があって、ちょっと不安に思ったとして も、そういう安全宣伝にすぐに洗脳されてしまって 、「原発がなくなったら、電気がなくなって困る」 と思い込むようになるのです。
 私自身が二〇年近く、現場の責任者として、働く 人にオウムの麻原以上のマインド・コントロール、 「洗脳教育」をやって来ました。何人殺したかわか りません。みなさんから現場で働く人は不安に思っ ていないのかとよく聞かれますが、放射能の危険や 被曝のことは一切知らされていませんから、不安だ とは大半の人は思っていません。体の具合が悪くな っても、それが原発のせいだとは全然考えもしない のです。作業者全員が毎日被曝をする。それをいか に本人や外部に知られないように処理するかが責任 者の仕事です。本人や外部に被曝の問題が漏れるよ うでは、現場責任者は失格なのです。これが原発の 現場です。
 私はこのような仕事を長くやっていて、毎日がい たたまれない日も多く、夜は酒の力をかり、酒量が 日毎に増していきました。そうした自分自身に、問 いかけることも多くなっていました。一体なんのた めに、誰のために、このようなウソの毎日を過ごさ ねばならないのかと。気がついたら、二〇年の原発 労働で、私の体も被曝でぼろぼろになっていました。

原発がどんなものか知ってほしい(11)

だれが助けるのか

また、東京電力の福島原発で現場作業員がグライ ンダーで額(ひたい)を切って、大怪我をしたこと がありました。血が吹き出ていて、一刻を争う大怪 我でしたから、直ぐに救急車を呼んで運び出しまし た。ところが、その怪我人は放射能まみれだったの です。でも、電力会社もあわてていたので、防護服 を脱がせたり、体を洗ったりする除洗をしなかった。 救急隊員にも放射能汚染の知識が全くなかったので、 その怪我人は放射能の除洗をしないままに、病院に 運ばれてしまったんです。だから、その怪我人を触 った救急隊員が汚染される、救急車も汚染される、 医者も看護婦さんも、その看護婦さんが触った他の 患者さんも汚染される、その患者さんが外へ出て、 また汚染が広がるというふうに、町中がパニックに なるほどの大変な事態になってしまいました。みん なが大怪我をして出血のひどい人を何とか助けたい と思って必死だっただけで、放射能は全く見えませ んから、その人が放射能で汚染されていることなん か、だれも気が付かなかったんですよ。
 一人でもこんなに大変なんです。それが仮に大事 故が起きて大勢の住民が放射能で汚染された時、一 体どうなるのでしょうか。想像できますか。人ごと ではないのです。この国の人、みんなの問題です。

原発がどんなものか知ってほしい(12)

びっくりした美浜原発細管破断事故!

皆さんが知らないのか、無関心なのか、日本の原 発はびっくりするような大事故を度々起こしていま す。スリーマイル島とかチェルノブイリに匹敵する 大事故です。一九八九年に、東京電力の福島第二原 発で再循環ポンプがバラバラになった大事故も、世 界で初めての事故でした。
 そして、一九九一年二月に、関西電力の美浜原発 で細管が破断した事故は、放射能を直接に大気中や 海へ大量に放出した大事故でした。
 チェルノブイリの事故の時には、私はあまり驚か なかったんですよ。原発を造っていて、そういう事 故が必ず起こると分かっていましたから。だから、 ああ、たまたまチェルノブイリで起きたと、たまた ま日本ではなかったと思ったんです。しかし、美浜 の事故の時はもうびっくりして、足がガクガクふる えて椅子から立ち上がれない程でした。
 この事故はECCS(緊急炉心冷却装置)を手動 で動かして原発を止めたという意味で、重大な事故 だったんです。ECCSというのは、原発の安全を 守るための最後の砦に当たります。これが効かなか ったらお終りです。だから、ECCSを動かした美 浜の事故というのは、一億数千万人の人を乗せたバ スが高速道路を一〇〇キロのスピードで走っているの に、ブレーキもきかない、サイドブレーキもきかな い、崖にぶつけてやっと止めたというような大事故 だったんです。
 原子炉の中の放射能を含んだ水が海へ流れ出て、 炉が空焚きになる寸前だったのです。日本が誇る多 重防護の安全弁が次々と効かなくて、あと〇・七秒 でチェルノブイリになるところだった。それも、土 曜日だったのですが、たまたまベテランの職員が来 ていて、自動停止するはずが停止しなくて、その人 がとっさの判断で手動で止めて、世界を巻き込むよ うな大事故に至らなかったのです。日本中の人が、 いや世界中の人が本当に運がよかったのですよ。
 この事故は、二ミリくらいの細い配管についている 触れ止め金具、何千本もある細管が振動で触れ合わ ないようにしてある金具が設計通りに入っていなか ったのが原因でした。施工ミスです。そのことが二 十年近い何回もの定検でも見つからなかったんです から、定検のいい加減さがばれた事故でもあった。 入らなければ切って捨てる、合わなければ引っ張る という、設計者がまさかと思うようなことが、現場 では当たり前に行われているということが分かった 事故でもあったんです。

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