2012年9月4日火曜日

神話の果てに 東北から問う原子力/第1部・不作為(1)タブー/想定外から思考停止に/敷地浸水せずと結論<河北新報

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神話の果てに
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第1部・不作為(1)タブー/想定外から思考停止に/敷地浸水せずと結論
2012年03月14日水曜日
http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1098/20120314_01.htm


防波堤を破壊し、福島第1原発に迫る津波=2011年3月11日午後3時40分ごろ(東京電力撮影)
 三つの原子炉が相次いで炉心溶融(メルトダウン)した福島第1原発事故。この1年、政府、東京電力は東日本 大震災と巨大津波を「想定外」と強調してきた。その一方で、想定の甘さを指摘した専門家の声に耳を傾けず、対策に生かさなかった経過も明らかになってき た。事故につながった度重なる「不作為」を、震災前にさかのぼって検証する。(原子力問題取材班)=第1部は4回続き

<「全部覆るから」>
 「津波が来たら駄目じゃないですか」。1991年10月30日、福島第1原発1号機のタービン建屋で冷却用の海水が漏れ、非常用発電機が水没し機能しなくなった。
 当時、東京電力社員だった原子炉技術者の木村俊雄さん(47)=福島県双葉町出身=は現場で上司に尋ねた。東電本店時代に安全審査担当だった上司は、こう答えた。
 「そうなんだよ。でも安全審査で言ったら全部覆るから、津波はタブーなんだ。よく連想できたね。でもタブーなんだ」
 2001年に退社し、現在は高知県土佐清水市で暮らす木村さん。上司の言葉には、国と東電の姿勢が反映されていた、と感じている。
 「津波対策を万全にするには安全審査の指針を改正する必要があり、全国の原発で膨大な設備投資が要る。金と労力を惜しんだのでしょう」

<“物証”前に抵抗>
 09年6月、経済産業省原子力安全・保安院の審議会は福島第1、第2原発の津波地震対策などが議題だった。
 産業技術総合研究所活断層・地震研究センター(茨城県つくば市)の岡村行信センター長は、第1原発の津波対策としてマグニチュード(M)8.4以上とされる貞観地震(869年)クラスを考慮するよう訴えた。
 産総研は東北大と合同で福島県沿岸部を調査し、第1原発から約7キロ北の福島県浪江町請戸地区で貞観地震津波による堆積物を確認していた。
 貞観津波が第1原発周辺を襲った“物証”を前にしても、東電は「被害がそれほど見当たらない」と抵抗。続く同年7月の審議会では、保安院も「貞観地震の地震動は(東電が想定する)基準地震の2分の1程度」などと発言し、東電を擁護した。
 だが東電は前年の08年、貞観地震クラスの津波も想定し、第1原発を襲う津波の高さを試算していた。その結果は東日本大震災直前の昨年3月7日、「津波評価について」と題した文書にまとめ、保安院に提出された。
 1~6号機の海水ポンプ付近の波高は8.7~9.2メートルで、原発敷地(海抜10~13メートル)は「浸水せず」との結論だった。

<注釈生かされず>
 ただ、文書の欄外に「2~3割程度、津波水位が高くなる可能性あり」との「注釈」が付されていた。津波の高さが2~3割増せば、第1原発の構内も危ない。10メートル以上の津波を想定した対策を講じても、何ら不思議ではなかった。
 注釈は結局、どこにも生かされなかった。河北新報社の取材に東電は「2~3割程度の誤差があるという意味で記載した。誤差だから(それを見込んだ津波水位は)計算しなかった」と答えた。
 文書では、明治三陸地震(1896年)=M8.2=クラスの地震が、三陸沖から房総沖にかけて発生した際の試算も紹介された。
 福島第1原発を襲う津波は15メートルを超え「浸水する」とされた。だが、国は地震モデルの確度を疑問視。その考えに沿って、東電も「想定」の外に追いやった。
 「たとえ、どんなに発生確率が低い事象であっても『あり得ることは起こる』と考えるべきである。無視していいわけではない」
 昨年末に公表された政府事故調査・検証委員会の中間報告は、想定外が「思考停止」につながったと痛烈に批判した。

2012年03月14日水曜日

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