2012年2月16日木曜日

電力会社・崩れる牙城:東電、やまぬ人材流出(その2止) 夢持てぬ「賠償会社」

 原発技術者:東電人材流出やまず 韓国が引き抜き攻勢
毎日新聞 2012年2月16日 8時27分(最終更新 2月16日 8時59分)

http://mainichi.jp/select/biz/news/20120216k0000e020181000c.html


 東日本大震災からほぼ半年後の昨年夏、東京電力の原子力部門に勤める幹部技術者が、韓国の政府関係者から食事に招かれた。「給与はどの程度カット されましたか?」「今の待遇に満足ですか?」。幹部技術者と親しい東電幹部によると、会食の目的は転職の誘いだった。打診された移籍先は国営の韓国企業 だったという。
 同じころ、東電の別の男性社員も、韓国政府関係者から面会を求められた。待ち合わせ場所に行くと、「力を貸してもらえないか」と転職を持ち掛けられた。韓国側からどのような処遇を提示されたかは明らかではない。
 関係者によると、2人とも転職の誘いを拒否し「今も原子力部門で働いている」(幹部)というが、東芝や日立製作所など世界最先端の原発を扱う東電の運用技術を狙った「ヘッドハンティング」の一端が浮かび上がった。
 韓国では90年代以降、当時は規模が大きくなかったサムスン電子がソニーやパナソニックなど日本の花形企業の技術者を「リクルート」して技術力を 高め、日本の電機メーカーを「駆逐」し、世界有数の電機メーカーにのし上がった経緯がある。東電幹部は「今は東電が国内外からの『草刈り場』になってい る」と危惧する。
 東電は原発事故による経営環境の悪化や民主党政権の「脱原発依存」「東電解体」の動きを受け、人材流出が止まらない。東電の内部資料によると、昨 年3月の事故後の退職者(定年退職は除く)は約300人と例年の3倍以上のペースで増え、年度末を控えて「退職予備軍」も200~300人にのぼるとみら れている。
 退職者は「技術系の若手」や「中堅・若手の優秀層」が中心で、転職先は総合商社や食品大手、外資系金融機関など。海外の原子力企業に転職した例は確認されていないというが、すべての転職先は把握しきれていない。
 「引き抜き」攻勢をかける韓国は総発電量の約3割を原子力で賄う。昨年12月には東部・蔚珍(ウルジン)で計画する原発2基の建設が許可され、李 明博(イ・ミョンバク)大統領は「我が国はエネルギー輸入国。原発建設は続けていく」と原発推進の姿勢を鮮明にしている。李大統領は今月5日、訪問したト ルコでエルドアン首相と会談し、中断していた原発建設交渉の再開で合意。原発事故で交渉が停滞した日本メーカーを横目に韓国企業の逆転受注を狙っている。
 福島原発事故後、ドイツ、イタリア、スイスが新規の原発を建設しない「脱原発」を宣言。一方、急増する電力需要や地球温暖化対策で米国や中国、東 南アジアの新興国などで原発新設が進む。「中国がドイツの原発技術者の獲得に動いている」との独報道もあり、技術者の争奪戦は国境を超えて激化している。
 また、原発技術の流出は、核兵器の拡散防止を目指す核安全保障を揺るがしかねない。東電は原発の使用済み燃料から取り出したプルトニウムをウラン と混合したMOX燃料を再利用するプルサーマルを実施している。核兵器に使われるプルトニウムを扱う東電の技術は「核兵器を造る能力」(資源エネルギー庁 幹部)でもある。
 衆院安全保障委員会の理事の一人は「原発の推進国にとって東電の技術は垂涎(すいぜん)の的。安全保障のうえでも東電の人材や技術が流出すれば問題だ」と警戒感を強めている。【三沢耕平】
毎日新聞 2012年2月16日 8時27分(最終更新 2月16日 8時59分)




電力会社・崩れる牙城:東電、やまぬ人材流出(その2止) 夢持てぬ「賠償会社」
毎日新聞 2012年2月16日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/biz/news/20120216ddm003020048000c.html

 <1面からつづく>
 人材流出が続く東京電力。政府は3月に策定する総合特別事業計画で今後10年の経営ビジョンを示すが、「新生東電」の青写真が明確にならなければ退職者はさらに増えるおそれもある。
 「『企業は人なり』です。ぜひ、社員のモチベーション(やる気)が維持される道筋を描いてほしい」
 昨年9月、東電のリストラ策を検討する第三者機関、経営・財務調査委員会。西沢俊夫社長は「経営の神様」とうたわれた松下電器(現パナソニック) 創業者の松下幸之助氏の言葉を引用しながら訴えた。勝俣恒久会長も接触を続ける政府高官に「何としても夢と希望が持てる会社に戻したい」と再生への決意を 伝えている。
 しかし、東電の前途に待ち受けているのは福島第1原発事故の被災者への賠償だ。賠償総額は同委員会の試算によると4兆5000億円。これに除染や廃炉などの費用を加えると「10兆円を超える」との見方もある。
 経済産業省幹部は「東電は今後20年は賠償会社になる」と言う。昨秋、退職届を受け取った東電幹部は「『夢が持てないので辞める』と言われた。会社の将来を語れない私に引き留めることはできなかった」と振り返る。

 ◇給料減、バッシングで見切り

地味でも「高給」「安定」などのイメージを持たれていた東電社員を取り巻く環境は事故で激変した。賃金(年収ベース)は一般職で20%減、管理職 で25%減。企業年金も引き下げられる見通しだ。「オール電化」営業や海外事業などを廃止した一方、事故処理業務にあたる人員は現在の7600人から1万 人まで増やす予定だ。
 人材流出が加速する背景には、過熱する「東電バッシング(たたき)」もあるようだ。「東電社員は皆殺し」「家族を誘拐して福島に捨てる」。東京都 内の社員寮に住む30代の社員は昨秋、こんな投書を受け取った。別の幹部社員は家族がいじめに遭ったと打ち明ける。姓名の変更や離婚を検討する社員もいる という。
 40代の社員は「会社に残って福島のために一生をささげようという気持ちと、家族を守るには退職するしかないという気持ちが交錯している」と胸中 を明かす。東電は福島県内の全避難所に4~5人を派遣していた。担当者は「東電の社員だと知れたら『袋だたき』に遭うので身分を隠して避難者の世話をして いた」と語る。
 多くの原発被災者は、今も厳しい避難生活が続く。国民の非難を浴び東電の優良企業のイメージは崩れた。一方、電力の安定供給という責任は果たし続けなければならない。
 「3月10日(原発事故前)の東電に戻ることはありえない」。昨年12月、枝野幸男経産相は記者会見で「東電解体」に意欲をみせた。民主党政権 は、地域独占に守られた「ぬるま湯体質」の中、安定した収益を得てきたのが実態だと切り捨て、電力完全自由化を促す抜本改革に切り込む構えだ。
 3月の総合特別事業計画には政府による「実質国有化」方針が盛り込まれる見通しだが、東電内には「国有化されれば、企業の成長に必要なアイデアが生まれにくくなる」と懸念する声もある。
 一方、政府内には人材流出を深刻に受け止めながらも「今、東電を去る人は、昔の東電に戻りたいが、それができずに見切りをつけただけ。『新生東電』にそんな人は必要ない」(経産省幹部)と冷ややかな声もある。

 ◇新経営陣の人選急ぐ 政府、再建へカリスマ分析

「再生時における主力人材のつなぎ止め施策例」--。
 政府が東電を再生するにあたって作成した内部資料には、経営危機に陥っていた日産自動車を立て直したカルロス・ゴーン氏と、巨額の不良債権処理で経営に行き詰まり、実質国有化されたりそなホールディングスを再建した細谷英二会長の取り組みが詳細に列挙されている。
 毎日新聞が入手したこの資料によると、具体例として「30~40代による『クロスファンクショナルチーム』で部門横断的な活動を展開」(日産)、 「不良債権処理を専門チームに担当させ、若手を後ろ向きの仕事から解放」(りそな)などを挙げ、先例にとらわれない「若手の積極登用と人事改革」の必要性 を強調している。
 日産再生前に仏自動車大手ルノーを復活させたゴーン氏は手法から「コストカッター(経費を徹底して削減する人)」と呼ばれた。国鉄改革派でJR東日本副社長から転身した細谷氏は異業種の銀行再建を果たした。
 「破壊と創造」をスローガンに社内改革に取り組んだパナソニックの中村邦夫氏についても分析。「トップ自らが厳しいメッセージを発信し社員の間に 強い危機感を醸成した」「メッセージ性の強い言葉を発信することで社内コミュニケーションを実施した」とし、危機感の共有や目標の明確化が必要だと指摘し ている。
 東電再生のカギを握るのは、政府による資本注入後の新経営陣の陣容だ。政府関係者は「破壊力に加え、創造力も必要」として社外からの人選作業を急 いでいる。15日に辞任の意向を示した勝俣会長に代わる新会長が陣頭指揮を執ることになるが、「民間企業でありたい」(西沢社長)と主張する東電側の反発 は強い。
 古い体質の残る東電をどこまで変えられるかが焦点で、新トップに強力な権限を与えられるかが命運を分けそうだ。【三沢耕平】
毎日新聞 2012年2月16日 東京朝刊

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